修行中の旅人、曲岩
早朝に起きないと見られない景色がある。今朝の部屋からはお月様が煌煌と空にかかっていた。
ゆくへなく月に心のすみすみて果はいかにかならむとすらむ
孤独に耐えながら独り月を見つづけていると、自分の心まで月の面のように次第に澄みとおっていく。こうまで月と一体になっていくこの心の果はいったいどうなっていくのだろうという恍惚の心の状態が歌われています。閑居の閑寂さがこの場合は心の平安をもたらしている例です。遁世の閑居の孤独に耐えかねた心情が歌になって昇華されてしまう時、西行の孤独はすでに客観化され、孤独からぬけだしているのです。¹
曲岩の作品は、渋い工業風の抽象絵画の域から10数年かけて少しずつ着実に進化している。旅人が旅先を国内に切り替えたここ2年間。急遽隔離生活やロックダウンに遭遇する可能性が危惧されるさなかでも、彼は常に雲南省や西側の僻地で非日常を体験し続けた。今回上海から東京に巡回してきた個展は、油画の作品と紙を使った旅先でのドローイングを主に展示する予定だ。
武術にも精通している曲岩は、上海に新しくできたアートスペースのルーフ・トップで時々パフォーマンスを見せてくれている。彼の作品を東京で初めて紹介できることが楽しみだ。
修行者曲岩、彼の抽象の中で何を見るか。コロナ禍が二年間も続いている現在、Web3が話題となり、個人の時代がやってくる。リアルな世界とメタバースの関係性の中でアートは何を担うべきか。作品を以て曲岩は予言者となり、同時に若い哲学者であるように思う。
海辺のアトリエにて Shun